動物愛護先進国イギリスで起こった、薬の表示をめぐる一論争

 興味深いニュースを聞いた。

BBC NEWS | Politics | 'Tested on animals' labels urged

以下、私による和訳:

「実験動物済み」ラベル要請
  人の健康が危険にさらされる可能性を製薬業界が危惧

 自由民主党(イギリス)のある下院議員によれば、使用者に科学の価値について啓蒙するため、薬に「動物実験済み」の表示をすべきである。

 元勤務医のEvan Harrisいわく、この表示は動物権利論者の主張に対抗するものだ。
 製薬業界はこの表示は人が薬を服用することを避けるようになるかも知れないと懸念している。
 イギリスの動物愛護団体The British Union for the Abolition of Vivisection (BUAV、イギリス生体解剖廃止連合)は、この動きは人々を混乱に陥れるだけであり、動物実験が必要であることを証明するものにはならないという。

「大きな恩恵」
 この論争は、トニー・ブレア首相が動物実験を支持するオンライン署名にサインすることを公言したことから始まった。同首相は動物権利過激派による“驚くべき”活動を非難しており、オンライン署名におよそ13,000人を集めようとしている。
 Oxford WestおよびAbingdon地区選出の議員Harris博士はBBCラジオ 4の今日の番組で、消費者に動物実験の“大きな恩恵”を示すことが大切であると語った。彼は言う。
「動物権利問題全体について、我々はとても満足している。過激派の有罪判決が数件あるし、Oxfordで過激派に反対するデモを行った人もおり、我々が勝つと思う。特に若者の心理戦には勝てると思わない。動物実験からヒトに大きな恩恵がもたらされていることを完全に明らかにすることが重要である。最も明らかな方法は、医療制度において、動物を用いた研究の最終結果の利用時である。この薬は、開発と安全試験で動物の人道的利用により得られた洞察を通してのみ手に入れることができたという表示をすることが、国民を啓蒙し、戦いに勝つためには必要である。」

懸念
 しかし、the Association for the British Pharmaceutical Industry(英国製薬協会)のPhilip Wrightは、この動きは健康に悪影響を及ぼすと危惧する。
「例えば、喘息の薬を毎日のんできた人が、その薬をのむことを止め、生命を脅かすような状況になることが心配されます。」
彼は言った。密に書かれている薬の表示に「動物実験済み」と印字する余白を作ることに現実的な問題もあると付け加えた。
 BUAVのキャンペーン指導者Alistair Currieは国民はより良い情報を与えられなければいけないが、「動物実験済み」と薬に表示することは単なる事実表明に過ぎないと主張する。
「薬は全て動物で実験されており、だからと言って、動物で実験せねばならないということではないのに、国民に誤解を招くことになると思う。」
と彼は述べた。
「単なる動物実験のプロパガンダです。この問題についての国民のより良い理解を助長するものではありません。国民に『ああ、だから動物実験をしなくちゃいけないんだ。』と感じさせるかも知れません。必要ではないのに。」
Currie氏は動物実験に合格した多くの薬が人の試験では不合格であるのに、このことはほとんど報告されていないという。


和訳ここまで(著作権は放棄していません。無断転載禁止です)


 イギリスでは動物実験反対運動が国政を左右するほど大きな問題となっている。過激派によりオックスフォード大学の研究者は脅迫など重大な人権侵害に苦しめられている。このニュースにあるように国の首相まで巻き込んで、問題の一つ一つで大きな議論が起こる社会情勢になってきているのだ。そんな中、今回の薬の「動物実験済み」表示問題が起こった。全ての薬は動物実験を行って開発されている。その薬を製造する会社が直接行っていなくても、間接的に下請けにやらせたり、あるいは既に安全性が確認されている原材料(これにも動物が使われてきたわけだから)を使ったりしていれば、自分たちが手を汚していないだけである。薬に「動物実験済み」と表示するならば、全ての商品が表示しなくてはならない。あるいは、動物実験を新規に行ったもののみ表示するとか、そういう差別化をはかるのか?さまざまな線引きをどこでするのか、決定しなくてはいけない。化粧品には、「動物実験を行っていません」と表示されているものもあるが、薬も同じようになっていくのか?だとしたら、消費者はどう反応するのか?研究者がいうように、「動物実験の必要性」を感じるのか?製薬会社がいうように、自分の命を死の危険に曝してもそれを避けるのか?BUAVのキャンペーン指導者が「薬を作るのに動物実験は必要ないのに、必要であるかのように国民に誤解を与える。」と言っているが、これは正しくない。残念ながら現段階では、Currie氏が言うように動物実験に合格した多くの薬が人の試験では不合格であっても、動物を用いる以外の実験方法で、あらゆる新薬を”責任を持って”人間の臨床試験にまでもってこれる方法を知っている人は、世界中に誰もいないだろう。
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by fussyvet | 2006-05-24 14:36 | 動物
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