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農林水産によく見られるもたれ合い

 茨城県の養鶏場(○○××社長)が8月、鳥インフルエンザウイルス感染の可能性があるとして県の立ち入り検査を受けた際、鶏の検体採取について虚偽の報告をしたとして、同県警生活環境課と石岡署は12日午前、家畜伝染病予防法違反(検査妨害)の疑いで同養鶏場の事務所などの捜索を始めた。

 県などによると、同養鶏場は8月28日に立ち入り検査を受けたが、○○社長は「県の家畜防疫員が検査をすると、ウイルスが入ってくる可能性がある」と主張。「全16鶏舎から自ら採取した」とする書類を添えて検体を提出したが、実際は16鶏舎中5鶏舎だけの検体を提出していたという。

 結果は陰性だったが、県の再検査で一部検体から抗体が検出された。県が今月上旬、○○社長に事情を聴いたところ、正しい検体を提出していなかったと認めたという。

 農水省は、鳥インフルエンザの検体は都道府県の家畜防疫員が採取するよう求めている。○○社長は獣医師資格を持っているが、家畜防疫員資格はなかった。


 私は家畜保健衛生所の家畜防疫員をしていたこともある。そこで見てきて与えられた強烈な印象は、農家の強さ、農家への各種助成金の多さ、そしてそれらをかばう農林水産関係の獣医師(行政職員、民間を含めて)の”偏り”だった。自らが経営する養鶏場についての検査を獣医師の資格を持った経営者が行う。通常、養鶏場と家畜保健衛生上はツーカーの中だから、「自分にやらせてくれ。」と経営者である獣医師が主張すれば、”信頼関係”を理由に任せてしまう。そんな馴れ合いの構図は確固とした壊しようのないものとなってしまっている。そんな似非”信頼関係”がなければ、家畜保健衛生所の仕事が進まないという現状にも大いに問題がある。これは、農林水産省下における産業全般に渡る問題であるのが実情。公共事業にまつわる問題の次は、ここではないかと思う。
 BSEが日本で発生した年、プリオンが検出される可能性が高い年老いた乳牛、いわゆる廃用牛が屠畜場で屠殺することを拒まれたり、農林水産関係団体が直々に「廃用牛は肉用として屠畜場に持ち込むな。」とお触れを出したりしていた。乳を出せず、コストばかり食う廃用牛は酪農家に溢れかえり、肉にすればまだ金になったものをかかりつけの獣医師に安楽死してもらって廃棄するしかなかった。
 そんな中、家畜保健衛生所長、他所のお偉いさん、共済のお偉いさん、いずれも獣医師だが、こう言った。
「○○の屠畜場に持って行って一万円握らせれば、やってくれるわ。」
 その屠畜場は私が以前食肉衛生検査員をしていたこともあったところであり、BSE騒動でかつての同僚も、現場の人たちもどれほど心労がかさみ、見えない出口を求めていたことだろうか、容易に想像がついた。その3人の獣医師の言葉を聞いた途端、腸が突沸した。
「何を言ってるんですか!屠畜場だってどんなに大変な思いをしているか!それも考えて下さいよ!」
こんなタヌキ親父たちが一都道府県の農政を仕切っているのかと思ったら、悔しくて腹が立って仕方がなかった。
 その前の年、口蹄疫が日本で発生した時、第一通報者である獣医師の元には嫌がらせの電話が入り、精神的にまいってしまったという。現場の真摯な人間は追い詰められ、上層部は保身しか考えない。茨城の経営者も経営者として必死だったのだろう。…皆必死。それを一部の者だけがつるんで、もたれ合って、守られ、外部の者はますます追い詰められる図式はもう見るに堪えられない。
 農政に関わる議員、行政マン、獣医師でおかしいと思った人間が声を出すしかない。残念ながら多くの場合、そんな声は大きな力にかき消されてしまうのだけれど。
by fussyvet | 2005-11-12 13:33 | 動物
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