実験動物供給会社

 ある実験動物の大手供給会社に勤務する獣医師と話していた。
「時々、『残酷なことをして…。』みたいなメールがあるよ。無視するけどね。」
時間的余裕がなければ、ましてや匿名のメールであれば、私も同じようにするだろうと思う。
 彼らの仕事は実験使用に堪える動物を生産して供給することである。文字にすると簡単だが、ただ単にポコポコ生ませて出荷していればいいというものではない。実験に使用する動物には微生物学的にクリーンであることが求められる。当然、供給会社の飼育室は清潔で汚染がないように管理されなければならない。人口過多で飼育されれば、糞尿等で衛生度は保てないから、必然的に密飼いはできなくなる。また、動物にストレスがかかっても実験データが揃わなかったり、動物の取り扱い自体が難しくなって顧客(この場合、動物実験を行っている会社や機関)からクレームがつくから、十分に配慮されなくてはいけない。そこで飼育されている動物たちは下手な家庭のペットよりも良好な福祉の下にある。どうしてそのような仕事があるのだろうか?理由は簡単、需要=社会的ニーズがあるからである。化粧品に関する動物実験は欧州から禁止の流れが起きているが、その他の分野、特に医学分野における動物実験は廃止することができない。供給会社に「残酷なことをして…。」と言ってみたところでどうしようもないのである。何よりも幼い頃の予防注射から始まって、医学の恩恵を被らずに生きてきた人間はいないだろう。自分たちの”罪”を見ずして、見える他人の”罪”を非難することのなんと罪深いことか。クレーマーのする営業妨害と同等であり、職業差別だとすら思う。

 英国でモルモット繁殖業者の親族の墓を荒らした犯人が逮捕された。彼らは、田舎の家族経営の零細企業を攻撃し、墓まで荒らして脅し、廃業に追いやったのだ。そんな三チャン企業を追い詰めたところで需要がある限り誰かがモルモットを作るだろう。

 ウイルス学の研究に携わっている大学の同級生が言った。
「動物実験はなくならないよ。」
 5年ほど前に会話した時のことである。私はそう言い切ってしまう彼に反発した。
「そんなこと分からないじゃないか。将来、それこそ科学が進んで、動物実験をしなくても良くなる日が来ないと言い切れるのか?そんなこと、それこそ科学者が言うことではない!」
 残念なことに現在の動物愛護活動家のやり方を見ている限り、私の負けだろうと悔しくて仕方がない。
 実験動物供給会社にクレームする人が活動家であるとは限らない。普通の人だろう。しかし、やり方を啓蒙しているのは活動家である。無知な人をそそのかすのであれば、誹謗中傷の声を届けるのではなく、建設的なやり方を指導するべきだ。「民意の力」を利用するのは肯定するが、営業妨害や職業差別とは別である。その辺りをきっちり分別できるようもっと深く考えるべきである。
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by fussyvet | 2005-10-01 06:32 | 動物
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