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相殺

 母が突然来た。使わないミシンとマタニティドレスになりそうな服があれば送って欲しいと頼んだら、
「ドライブがてら、行く。」
と。鬱で寝ていたから、メールを見るのが遅れた。
「彼は日曜にならないと海外出張から帰ってこないし、今日私は鬱と不眠症で学校休んで寝ているし、明日からは実験だし、土曜日の夜か日曜日の昼間ならいいよ。」
と打ったが、もう高速に乗って中間地点まで来ているという。娘は具合悪くて寝ているのに、こちらの都合を全く考えない。情緒不安定の「躁」の予感がした。自分が鬱の時に躁の相手は堪らない。ますます憂鬱になりつつ、待っていると夜の9時頃やってきた。
 母がうちへ来るのは初めてだ。夫が居ない時にやってくるなんて、夫をないがしろにしているようで気が引ける。けれど、躁の母は止められない。医療系海外ドラマで、躁鬱病の母親に苦悩する看護師が出てくるが、自分たちのことに重ねて胸が痛んだものだった。あのドラマの中の母親のように顕著な躁鬱ではない。母はドラマの中のその母親を見て、
「どうしようもない母親だね。」
と言っていた。他人事のようにいう。自覚は全くない。一度、カウンセラーか医者に行ってみたらと勧めたことがあったが、
「私はそれほどじゃあない。」
と、当時アル中病み上がりの娘に、自分のことを心配していなさいと言わんばかりだった。
 愛猫を亡くして辛いことだろう。どうにかしなければと藻掻いているのだろう。そんな母に、
「こっちの都合も考えてよ!」
とは怒れなかった。
 突然出てきて父は知っているのだろうか?尋ねると訳の分からないことをモゴモゴ言っている。電話掛けるように言ってもすぐに掛けようとしない。やっぱり突然出てきた手前、話しづらいのだろう。仕方なく、母が出掛けている間に父に電話した。
「お母さんに言っておいてくれ。突然書き置きも何もなく出て行ったら困る。」
私は苦笑するだけだった。
 せっかく来てくれたが、躁の母に合わせる気力もなく、また私も心中では怒っていたため口数少なくいた。風呂に入るよう勧めてもなかなか入らない。待てずに自分が先に入る。ここで優しくしたら、また相手の都合を考えない行動に出るだろう。私が独り身ならまあいいが、今は夫が居る。夫を巻き込みたくない。
 ぎこちない時間が過ぎて、やがて少しずつ母も平静に戻ってきた。私が明朝早く出掛けなければならないことを気に掛けている。
「そう、朝早いからね。もう寝るよ。不眠症で寝られないけどね。」
そう言いながら、母に床に入るよう促し、私も自分のベッドへ行った。

 不思議である。迷惑だと思っていたのに…。躁だから敵わないと思っていたのに…。私自身もなぜかとても落ち着いていた。そして、そのまま次第に眠っていった。
 よく寝られた。朝もきちんと起きられた。いつも憂鬱になる朝の空を見ても平気だった。
 嫌いだ、こんな情緒不安定な親は嫌だ、と思っていても、母親は母親である。きっと私が落ち着く場所なのだ。まるで母の躁と私の鬱が相殺したように今朝は晴れやかだった。
 今頃、突然家を空けたことで父と喧嘩になっていないだろうか?母はまだ不安定で、藻掻いているのだ。これまでの悔しかったこと、あの時ああしていれば…、愛猫のこと…、母の心を楽にしてやりたい。
 そして、私も同じ道を辿るのではないかととても不安に駆られる時がある。母娘である。とても似ているのだ。そして私は生まれてくる子供にとって重荷になってしまうのではないか?今一番恐れていることである。

 ひたすら神に祈るだけである。どうか母の肩の荷を下ろしてやって下さい。どうか生まれてくる子供に私が悪影響を与えませんように。どうか、どうか…。
 お腹の子は無邪気に私のお腹を蹴っている。取り越し苦労だと笑っておくれ。
by fussyvet | 2005-09-15 19:51 | 家族
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