画像診断の難しさ

 実家のネコはかかりつけの病院で「アレルギーから来る肺炎」と言われた。レントゲン検査の結果、一部にそれらしき影があるとのことだった。ステロイドを服用し続けたが一向に良くならず、ついに呼吸困難になった。私は母にセカンドオピニオンを求めるため、そのネコが幼い時に診てもらったことのある獣医のところに行くように勧めた。
 その2軒目の獣医は獣医師会に入っていないアウトローであり、とても口が悪い。獣医師会が嫌いな私はアウトローであろうが口が悪かろうが、腕には関係ないから行ってみたら良いと勧めた。過去にそこでは、他院で体重も測らずに寄生虫駆除薬を接種された実家のネコが助けてもらったこともあるし、私の子供の頃に飼っていた小鳥を診てもらったこともある。公務員を辞めた知り合いが代診をそこでしていたこともある。そんな背景もあって、私はセカンドオピニオンをそこに求めるよう勧めた。
 呼吸困難であったにも関わらず、実家のネコはそこで押さえつけられ、造影剤を投与され、X線撮影された。そして、「横隔膜へルニア」だと言われた。横隔膜へルニアなら手術が必要である。しかし、状態が悪くてできないと言われた。横隔膜へルニアなど外傷や先天性でない限り、とても珍しい病気である。私は疑問を持った。そこの獣医は私も獣医であることを知っていた。そして、自信満々にデジカメでそのX線画像を撮影して私に送ってやればよいと母に言った。そして、母は私にその画像を送ってきた。
 臨床獣医ではないが、横隔膜へルニアの画像は頭の中に入っているつもりである。送られてきたその写真は画像の悪さを差し引いても、横隔膜へルニアを示しているようには見えなかった。その代わりに肺の陰影がやはりおかしい。その日は土曜日であった。
 横柄な2軒目の獣医のことを父は大嫌いである。そんな父の意向もあり、また私も直接的には知らないが、そこにいる知人達に内部事情を確認してから大学病院へ行くことにした。もう、気など遣っていられない。1軒目の獣医に寄ってX線画像を借り、大学病院へ父と母は走った。1軒目の獣医も私が獣医であることを知っている。ワクチン接種などネコがずっとお世話になっていたその先生の顔はこわばっていたという。ただならぬ気配を感じ取ったのだろう。あるいは自分の腕を疑われて自分の紹介状もなく大学病院へ走ろうとする依頼人にプライドが傷付けられたのかも知れない。
 そして、3軒目の病院である大学病院。内科の先生は1軒目で撮られた画像を見るなり、「肺の一部が膨らんでいる。破裂したら危険だ。ネコを急激に動かすな。」と学生を制した。実家のネコは腫れ物を触るように大事に扱われたと母が言う。そして、酸素室に入り、状態が良くなったところでX線撮影を再びすることになった。その日は入院し、その夜のことであった。夜の10時に母に電話が入った。「やはり片肺が破れていた。とても危険な状態だ。」と。
 それ以後は私が実家に帰り、大学の先生とも話をした。X線画像も見せてもらった。確かに1軒目の病院のX線画像は肺に黒く風船を膨らましたような影があり、昨晩大学病院で撮られた画像ではそちら側の肺が気胸になっていた。破れた箇所から出血しているかも知れない。とにかく肺はボロボロだった。そして、もう片肺も肺炎を思わせる如く白くなっていた。

 結局、1軒目のアレルギー性肺炎という見込みは間違ってはいなかった。けれど、肺の“膨らみ”を見逃している。2軒目に至っては「横隔膜へルニア」などと自信満々の誤診。私は臨床獣医師ではないので彼らを非難する権利はない。しかし、もっと個人病院と大学病院の連携があればよかったのではないかと悔しく思う。開業病院が地元の大学病院を嫌うことはよくある。理由はさまざまだ。
 そして、画像診断の未熟さ。人間の医者のように研修医制度が整っていない獣医の世界、一番基本的な診断ツール、そしてその読み取りさえ習得できないまま、臨床医になっていく者の何と多いことか。それが、現在の獣医の世界。そういう制度。「未熟者」と非難できない。なぜなら、現在多くの獣医師皆が同様に未熟だからだ。
 結局ネコは天に召されてしまった。失って悔しくて悲しくて仕方がない。ああ、悔しい。自分にも悔しいし、画像診断のできない獣医師にも悔しくて仕方がない。
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by fussyvet | 2005-07-28 16:23 | 動物
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