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動物実験の現場

 海外の動物愛護団体が製薬会社に潜入して実験動物取り扱いをビデオに収め、インターネット上で公開している。どうやって撮影したかは知らないが、もし日本において身分を偽って潜入して撮影すれば不法侵入等、いくつかの法律に触れて逮捕される可能性があるので念のため付け加えておく。
 このビデオの中に出てくるいくつかの場面について個人的な見解を列挙する。

・サルを保定しているが、動物の保定は動物実験だけでなく、他の場面でも行われることである。
・経鼻胃カテーテルを留置しているが、このカテーテルを入れること自体は動物実験だけでなく、獣医療場面ではよく行われることである。
・途中、この会社の獣医師が「私はこのサルを治療することを認められていない。」と言っているが、通常動物実験には被験動物に不必要な苦痛を与えないよう鎮痛剤の投与やエンドポイントの設定が厳格に求められるが、実験計画に記載されたエンドポイントでない限り、獣医師が手出しできないこともある。
・狭く不衛生なオリに閉じ込められることにより、サルが精神的におかしくなっているとあるが、確かに常同症(同じ動作の繰り返し)などその徴候が認められる。
・技術者や毒性学者がサルに向かって悪意のある言葉で虐待しているとあるが、イラクの捕虜収容所でアメリカ軍人が捕虜に対して行ったと同様の、閉鎖社会特有の虐めが認められる。

 当該製薬会社のホームページを見てみたら、動物福祉についても掲載されていた。以下はそこに明記されていたことである。
1.当社は取り扱っている動物に尊敬の念を持って取り扱います。私たちは私たちが扱っている動物たちが救命法の進歩に貢献していることに敬意を表し、動物たちが払われるべき尊敬の念を持ってこれらの動物たちを取り扱います。
2.動物の取り扱いに関する全ての法律や規則に厳格に従います。
3.適切な規制と科学的信頼性が高い科学的な代替法を動物実験に代わり取り入れます。
4.動物の不快感の最小限にします。私たちは取り扱う動物の不快感やストレスを減少させるため、実験プロトコールと良質な科学に従って業務を行います。
5.社員と業務がこれらの基準に確実に適合するよう対策を講じます。私たちは社員が適切な処方と技術で動物を取り扱うよう訓練し、これらの処方と技術およびこの”敬意の基準”が確実に遵守されるよう適切に監督します。この”敬意の基準”の遵守に不正や過失があればそれを社員に報告させるよう奨励していきます。
6.経営者、または一社員がこの“敬意の基準”に従わなかったことが判明した場合、適切な改善措置と懲戒処分を執ります。

 上記に照らし合わせてみれば、技術者や毒性学者がサルに向かって悪意のある言葉を投げかけていることは“敬意の基準”に反する行動であり、適切な改善措置と懲戒処分が執られるべきである。
 ところで、私が箇条書きにした他のことについては、ビデオだけでは明らかな“悪”だと断言できないのである。常同症については、確かに大きなストレスがかかっている動物に認められるものであり、動物福祉のことを考えれば好ましくないことではある。しかし、実験動物だけでなく動物園動物、畜産動物、そしてオリに閉じ込められたペットでも同じことは現段階で生じていることであり、残念ながら実験動物についてだけ断罪できる段階にはない。ビデオを見た人はそんな意見も念頭に置いてもう一度見てみて、動物実験現場の理解を深めてから意見を持って欲しいと思う。参考までに、私の周囲にはあのビデオの中のように動物に悪態を付く者はいない。
 最後ではあるが、私は”適切な規制と科学的信頼性が高い科学的な代替法”の開発が進み、動物実験に用いられる動物の数、そして動物実験自体が減ってくれることをいつも願っている。
by fussyvet | 2005-05-25 20:08 | 動物
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